自虐

自虐をすることの精神防衛的な利便性にあんまり頼りたくないんだけど、言わせて欲しい。私は作曲が下手くそだと思う。僕の曲を褒めてくれる人は全員神様だと思う一方、大ウソつきだとも思う。


作家性だとか高い次元の話をしているのではなく、本当に、シンプルに、音がしょぼい。それを自覚できてしまうのもつらい……とは言うけど、ここに罠がある。自覚の解像度が低いのではないか?認知が歪んでいるんじゃないか?過剰な自傷行為かもしれない。


冷静になってみる。しょぼいってのは相対評価だ。誰の曲と比べてるんだろうね?わからない。なんとなく、今の自分と比べて、すごい曲。っていう永遠に追いつけないパラドックスみたいなゴールを設定、1人持久走大会を開催。立ち止まってしまうとまた走り出すのが億劫になるから、惰性で地面を蹴り、腕を大きく振っている。


ゴールが無いなら中学校の外周の景色を楽しんでみるのもいいかもしれない。一周1.1kmの間にはいろんな店がある。野球部がかっ飛ばした軟式ボールが落ちてたり、用水路にはアメリカザリガニがいる。夏の夜には花火があがるし、冬の朝には雪が積もる。走りにくい。四周目に差し掛かり、最近奇妙な噂話をよく耳にする。もう何十年も前に取り壊された中学校の周りで、学校指定のジャージを着た生徒の走る姿が目撃されるらしい。チープな怪談話を肴にペースを上げてみよう。もう五時間目の国語も始まってるだろうに、まだ走ってるのは俺だけだ。


やがて空は令色を帯び、青色を経由して紫に染まる。周回を重ねるごとに周りの景色はその様相を変える。学校を囲う柵は錆び、民家は朽ち、校庭には湖ができ、歩道の真ん中には墓が立つ。引き返せ、さもなくば…と脅迫をするように。


それでも…俺は…ハンケチを届けなくちゃあいけないんだ…
それでも…俺は…

 

目が覚めた。
肘でキーを押していたらしい。画面いっぱいにZの文字。
zzzzzzzzzz